Current research topics
Project 1
「自己治癒セラミックス材料に関する研究」
Study on self-healing ceramic matrix composite
近年,国内外の研究機関において,自己治癒性を有するポリマー,コンクリートおよびセラミックスの開発が取り組まれています.次世代のスマート材料の本命とされるこれらの材料は,損傷(微小き裂)発生時に,化学反応を積極的に活用することで微小き裂を再結合し,健全な状態へ自律的に回復できます.
中でも,酸化物系自己治癒セラミックス基複合材は比強度,耐熱性,耐腐食性に優れているため,Ni基超合金の代替材料として,次世代航空機エンジンタービン翼への適用が期待されています.大量CO2排出源となることが予想される航空機用ジェットエンジンの高効率化は,人類の持続的発展に必要不可欠な技術課題です.タービン静動翼のセラミック化は大幅な燃費向上を通じて,我が国の総CO2排出量半分相当を全世界で削減することを可能にします.
自己治癒セラミックス材料イノベーションを達成するためには,これまでのフォアキャスティング型アプローチ(材料設計⇒パフォーマンス)から脱却し,バックキャスティング型材料設計スキーム(パフォーマンス⇒材料設計)を確立する必要があります.その目的のため,基盤となるバーチャルテストのフレームワークを構築する必要があります.具体的には,下記のテーマに取り組んでいます.
自己治癒セラミックスの構成モデルの構築
Proposal of constitutive model for self-healing ceramics
高温酸化による微小き裂の治癒(修復)機能を有する自己治癒セラミックス材料の実用化に向けて,数値シミュレーション解析の核となる「損傷―自己治癒構成モデル」の構築に取り組んでいます.具体的には,損傷の進展に加え,反応速度論に基づき自己治癒現象の発展則を規定することにより,連続体力学の枠組みの中での定式化を可能としています.
また,提案構成モデルを有限要素法に実装することにより,損傷⇔自己治癒の一連の過程を荷重・変位境界条件下のみならず,変動する任意の温度・酸素分圧条件下でシミュレートできるようにしています.最終的に,自己治癒セラミックスの材料設計/構造設計のための革新的技術として発信することを目指しています.
セラミックスの破壊統計に関するバーチャルテスト技術の構築
Proposal of virtual test method for fracture statistics of ceramics
脆性材料であるセラミックスを安全に使用するうえで最大の障害となる,破壊強度のばらつきを数値解析にて評価する手法の確立を目指しています.具体的には,微視組織の分布情報を入力値とし,破壊力学モデルを介することで有限要素法による強度評価を可能とする手法です.
本研究により,ワイブル統計などの情報を仮想空間にて高精度かつ短時間で取得できるようになるだけでなく,構造部材の要求性能と微視組織を関連付けることができるため,バックキャスティング型の材料設計が加速されます.
Project 2
「テラメカニクスに関する研究」
Study on terramechanics
テラメカニクス(Terramechanics)とは,大地と機械の相互作用を取り扱う学際的な学問分野です.その対象は,自動車,建設機械,農業機械,特殊車両などに代表されるオフロード車両全般を含み,最近では,災害対応ロボットや月・惑星探査ローバなど,極限環境下での問題にも応用されています.テラメカニクス解析の代表的な活用例としては,下記のようなものが挙げられます.
- 泥土や砂などの軟弱地盤や,瓦礫や木材などで構成された様々な路面を”スタック”せずに,且つ効率的に走破するための走行部(車輪・履帯・脚)の設計
- 無人走行・自律走行のための制御の高度化および経路計画,遠隔操作の支援
- 情報化施工(i-Construction)による作業工程や災害現場における復旧作業の事前検証
- 月・惑星探査機器の着陸機やサンプリング機構の設計・シミュレーション
本研究室では,これまでにテラメカニクス理論の拡張とその動力学シミュレータへの実装を目的として研究を展開しています.具体的には,汎用テラメカニクス実験装置を開発し,車輪式足回りおよび履帯式足回りを対象に,最新の研究動向を反映したテラメカニクス理論を提案しています.また,提案理論を動力学シミュレータに実装することにより,各種オフロード車両の解析にも取り組んでいます.他方,機械部のみならず,地盤変形解析についても詳細な検討を行うため,動力学解析と相補的な関係にある個別要素法解析や有限要素法解析を実施しています.
Project 3
「速度・状態依存性摩擦モデルの構築と数値解析への実装」
Proposal of rate- and state-dependent friction model and its application to numerical simulation
工学上の具体的問題は,通常,接触摩擦境界を含んでいます.そのため,境界の力学的処理は系全体の数値解析結果に影響を及ぼす可能性があります.特に,摩擦振動,いわゆるスティックスリップ運動は摩耗や疲労,騒音など,機械システムの安定性を損なう要因となります.一般に,数値シミュレーション解析によるすべり摩擦現象の定量的な予測は困難を伴います.しかし,有限要素法などの汎用解析手法を用いた系統的な検討により得られる情報は,例え定性的な結果であっても,少なからず意義のあるものだと考えられます.
本研究室では,Hashiguchi and Ozaki (Int. J. Plasticity, 2008)により提案された速度・状態依存性摩擦モデルを有限要素法に実装するとともに,接触系の変形挙動と連成したスティックスリップ運動の時系列解析手法を提案しています.これより,CADデータからインポートされた任意の機械システムの形状を有限自由度の連続体として取り扱うことができ,これまで個別に検討されてきたシステムの強度・剛性(材料力学特性)と摺動面のトライボロジー特性を同時に検討することが可能となり,ひいては機械システムの設計・管理・制御手法のさらなる高度化が期待されます.
接触・摩擦現象のマルチスケール解析手法の提案
Proposal of multi-scale analysis method for frictional contact problems
一般的な有限要素法では,モノづくりの現場において問題となる接触・摩擦現象を伴う条件下での摩耗・疲労・振動発生に対する詳細な検討は行えません.一方,トライボロジー分野では,摺動時の境界潤滑膜での物理的素過程や化学的素過程を微視的なスケールで検討することにより,摩擦特性の理解と制御が試みられています.しかしながら,分子動力学法などに基づくこれらの研究では,扱える空間・時間スケールに限界があり,現在のところ,バルクの変形をも考慮した検討には適用できません.
本研究室では,巨視的および微視的スケールにおいて,それぞれ発展を遂げてきた各知見を統合し得る『接触・摩擦問題に対するマルチスケール有限要素解析手法』を提案しています.具体的には,「現象論的な速度依存性摩擦モデル」を介することで,「メゾスケールでの多点接触モデルや境界潤滑モデル」と「マクロスケールでの有限要素モデル」を結びつけています.これより,各スケールでの解析結果を相互に展開できるため,例えばバルクの変形や応力場に伴う境界潤滑膜の振る舞いなどを詳細に把握できることになります.
ゴム材の摩擦特性に関する研究
Study on rubber friction
ゴム材は接触面にて使用される場合がありますが,設計や管理で重要となる摩擦特性については未解明な点が多く残されています.これは,ゴム材の摩擦特性が金属材料などと異なり,界面の真実接触点での『凝着摩擦』とバルク内部での『ヒステリシス摩擦』の二つの要因に支配されるためです.ヒステリシス摩擦は,摺動過程で受けるゴム材の圧縮・せん断・除荷のサイクルによる弾性ヒステリシスに起因したエネルギー散逸と等価であり,タイヤの転がり摩擦との関連が深いことで知られています.他方,ゴム材のヒステリシスロス,すなわち,応力-ひずみ関係は周波数依存性および温度依存性に加え,負荷履歴依存性を示すことが指摘されています.
本研究室では,万能試験機と摩擦試験装置を併用することで,ゴム材の摩擦特性に対する負荷履歴依存性および供試材の形状依存性について,系統的な研究を実施しています.